'00 ゴールデンゲームズ in のべおか 
「 試 練 」 
[4]主催者のため息[観客のために走ってくれるランナー:男子1500m]

さて、今年も注目の男子1500mのレースがやってきました。
ただ、雨が降ったり止んだりの最悪なコンディションで、私も目の前を走っている選手の姿を追って写真を撮ってカメラについた水滴をはらって・・・というのが精一杯。気づいたら選手がスタートラインに並んでいたという感じで、昨年ほどの期待をする余裕がありませんでした。
他のレースでは、スタートしてから出場選手の名前がアナウンスされるのですが、この1500mは出場人数が少ないことから、レース前にアナウンスされます。その時間を利用する形で、ようやく気持ちを切り換えることができました。

今年から順天堂大学所属になった佐藤清治選手の名前がアナウンスされると、佐藤選手は背筋をピンと伸ばして手を上げ、四方の観客に向かって丁寧に頭を下げました。ユニフォームも違う、大雨のおかげでグラウンドコンディションも違う。佐藤選手自身の調子も昨年ほどではないと聞いています。昨年とは全く違うレースになるんだろうと勝手に決めていたけれど、レース前の佐藤選手の動作は、昨年と全く同じでした。その動作を見て私は、「あぁ、去年とおんなじだ」と、少し懐かしい気持ちになりました。同時に、今年も何かやってくれるかもしれないという期待が頭にぽっと浮かびました。

そして、スタート。予想通り、自衛隊体育学校の森選手が集団を引っ張ります。さぁ、行け。頑張れ。良いレースを見せてくれ。そんな気持ちで看板を叩く私たちの前を通過してすぐのところで、アクシデントは起こりました。

ちょうど400m通過のアナウンスを聞くか聞かないかくらいのところで、誰かの足が外に流れたように見えました。まずい、転ぶ!と思った次の瞬間、佐藤選手がバランスを崩して倒れるのがわかりました。つまずいて地面に手をついてしまった上に、集団からやっとの思いで逃れるようにして、外側に転がり出てきました。競技場全体が、一瞬凍りつきました。

一応雨はあがったものの、トラックには所々水が溜まり、照明に反射して光っています。とっさに「スリップしたのか?」と思いました。立ち上がった佐藤選手は、再び走り出そうとしますが、うまく前に進めません。地面に手をつくようにして倒れそうになりながらも、また立ち上がって何とか走り続けようとします。「もう、いいよ。気持ちはよくわかったから、もういいよ。」佐藤選手に対して心の中で叫び続けていると、50mほど進んで何度目かに手をついたところで、彼はようやく走るのをやめました。

印象的だったのは、一端トラックの内側に入って様子を見て、ようやく立ち上がってメインスタンドの方へ戻るその時に、佐藤選手がバックスタンドに向かって頭を下げたことです。そして、うつむいてトボトボと戻ってきた佐藤選手に対して、日本海の疾風さんを中心とした第一コーナーの面々が「佐藤!次、頑張れよ!」「お疲れさん!」と声をかけ、看板をガンガン叩くと、佐藤選手は肩を落としたままではありましたが、顔を少し上げてから、一礼して私たちの声に応えてくれました。

私は、ランナーは自分自身のために走っているのだと思っていますし、ランナーとは本来そうあるべきなのだろうと思います。
でも、足を痛めても再び走りだそうとし、観客に頭を下げて去っていった佐藤清治選手を見て、彼はもしかしたら自分のためと同じくらいに観客のために走ってくれているのかもしれない、という気がしました。もちろん棄権はすごく残念だったし、脚の状態も心配でした。でも、不謹慎かもしれないけれど、思いもかけない場面で佐藤選手の観客を大切にしてくれる気持ちに触れて、私は、観客の一人として感激に似た気持ちを感じたのでした。

さて、佐藤選手がトラックの内側に入って座り込んでいる間も、レースは淡々と進み、残り400mを切ったところでスパートをかけて前にあがってきた徳本一善選手(法大)が優勝しました。私としては、徳本選手にも注目していたので、それはそれで嬉しかったのですが、徳本選手自身は、ウィニングランも優勝インタビューもすごく居心地が悪そうに、そしてすごく恥ずかしそうに何度も頭を下げて観客の声援に応えていました。見ていらした皆さん、徳本選手も関東では有名な選手だし、けっこう面白い選手だと思うので、これを機会に名前と顔を覚えてあげてくださいね。

[世界との差:男子10000m]

ラストレースの男子10000mの頃には、雨もすっかりあがりました。空気は湿気を含んでいて重かったけれど、それを吹き飛ばす快走をみせて欲しい。そう願いながら、スタートラインに並んだ選手に注目しました。期待通りの蒼々たるメンバーです。私の勝手な直感でしたが、たぶん、今年は出場選手たちが日本記録よりオリンピックA標準の方を照準にして走ってくるだろうと思いました。

12:30から数え切れないほど行われてきたレースにおいて、第一コーナーでは、基本的に旭化成や旭化成に関係した選手に声援をおくってきました。だから、このレースでも、スタートと同時に旭化成から出場の佐藤信之選手と鹿屋体育大学の永田宏一郎選手を中心に声援をおくりました。
でも、途中から集団がばらけ出して、選手が一人旅に近い形になってくると、先頭を行くマイナ選手に必死に追いすがろうとする藤田選手(富士通)を中心に、全ての選手に「頑張れ!」と声援をおくるようになりました。ほとんどの選手の名前と顔が一致していたし、何より旭化成とか何とかそういう枠を超えて、良いレースをし、すごい記録を出して欲しかったからでした。

A標準にあと1秒ちょっとに迫っていた永田選手は、この日は冴えませんでした。いつもの軽くてダイナミックな走りが、この日は見られなかったように思います。今春のレースは全て記録を狙って走ってきたと思うので疲労もあるでしょうし、記録を狙うにしてはコンディションもあまり良くなかったので、ちょっと多くを期待しすぎたかなという気がしています。

我らが?!佐藤信之選手は、スタート直後は集団のかなり後ろの方で、そこから徐々に中盤まで上がってきて、レースを進めていました。序盤は全然スピードに乗れていない感じがあったので心配したのですが、レース後半はかなり粘り強く上がってきていたというか、気持ちを切らさずに走っていたなという気がしました。実は、今年はあまり調子が良くないのではないかと予想していたので、「やっぱりな〜」という気持ちと、でもそれにしては後半は頑張ったな、やっぱり力はある選手なんだなという気持ちが半々でした。

それから、印象に残ったのは佐藤違いの早稲田大学・佐藤敦之選手。最初は集団の中盤から少し後ろあたりで走っていたのですが、途中からグングン上がってきて、最後は自己ベストを5秒以上更新しました。ものすごい粘りと集中力。これからが楽しみな選手です。

日本人トップの藤田選手は、むちゃくちゃ頑張っていました。今までトラックではイマイチの選手と思っていましたが、今日は前を行くマイナ選手を懸命に追って、もしかしたらA標準をきってくれるのでは?という期待も抱かせてくれるような走りでした。・・が、残念ながら、終わってみれば27分台を出したのは優勝したマイナ選手一人。藤田選手は競技場の計時で28分20秒くらいのタイムでした。・・・気のせいか、どこかから主催者のため息が聞こえてきたような気がしました。

レースが終わって片づけをしていると、後ろから「お疲れさまでした!」と声をかけられ、振り向くと佐々選手がいらっしゃいました。彼が、とびきりの笑顔と一緒にくださった「藤田くん、惜しかったですよね!走り自体はよかったし。A標準破ってたら、彼にとっても大きかったと思うんですけどね。28分20秒でしたっけ?・・でも、その10秒分が世界との差なのかもしれないですね。」というコメントが、今日のファイナルをよく表していたように思いました。


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送